INTERVIEW
企業インタビュー
2024.11.01
伊勢志摩地域に変革を起こす地域イノベーション企業
IXホールディングス 株式会社 代表取締役 浜田吉司 氏
IXホールディングスの社名は、Iは伊勢志摩地域、Xはトランスフォーメーション(変革)を意味しています。創業から59年目と長い歴史を持ちながらも、次々に伊勢志摩地域に変革を起こしています。老舗としてのイメージも強いIXホールディングスが、いかにして伊勢志摩地域に小さなイノベーションを起こし続けているか、代表取締役社長である浜田吉司氏に伺いました。
『理念経営』の実践
当社では、経営理念の実現を目指す『理念経営』を実践しています。「一番大切な人に届けたい本物をつくること」「仕事を通して人生の幸福を追求すること」「地域社会の豊かさづくりに貢献すること」という3つの経営理念を掲げ、日々経営理念の実現に向けた活動を行っています。日々の活動は、理念経営実践レポートという形で毎年公表しています。
経営理念の先にある3つのゴール
3つの経営理念はそれぞれのゴールを設定しています。
「一番大切な人に届けたい本物をつくること」という経営理念のゴールは『世代を超えて続く会社をつくること』です。能力のある社長の代では良かったが、次の社長の代に入ったときに、会社が失速してしまう、そういった例があります。従業員は社長が交代してもずっと継続していく会社でないと安心して勤められません。本物は世代を超えて愛されるものですから、本物を持った会社というのは経営が世代を超えて続いていきます。
「仕事を通して人生の幸福を追求すること」という経営理念のゴールは『この会社に勤めてよかったと思える人を増やすこと』です。自身が成長できた、もしくは良い仲間ができたなど、社員がIXグループで勤めてよかったと思ってもらえる状態を目指したいです。
「地域社会に貢献すること」という経営理念のゴールは『伊勢志摩地域に高収入の仕事を増やすこと』です。仕事はあって当たり前として、収入が低ければ、たくさん働いても地域はなかなか豊かにならない。地域の人たちが豊かになるためには、高収入の仕事が必要です。
地域のポテンシャルを最大限活用すること
伊勢志摩地域に関わらず、全国の地方地域にある社会資源が今の時代に適合する状態で活用されているか、という疑問を持っています。変化や刺激を求める人は都会に行き、田舎には保守的で穏やかな人が多いという傾向から、地方では社会資源の活用が時代遅れになりがちだと感じています。また、伊勢志摩地域外の人から「こんなにいいものがあるのに、なんでそれを上手に活かしてアピールしないのだろう」と言われることが多いです。やはり、伊勢志摩の人たちがもっと積極的になり、社会資源を活用しなければならないと思います。本当にその地域で活用しきれないのであれば、他の地域の人に頼んででもそれを活用するべきだと私は思います。
地方にある社会資源を時代に適合する形で活用し直せば、価値を発揮し、お金を生むことができます。当社は、観光資源・一次産品・土地建物・後継者がいない会社など、伊勢志摩地域の社会資源を最大限に活用していくことを目指しています。当社は、地方というドメインの中だけでビジネスをしているわけではありませんが、当社社員の九割ぐらいは伊勢志摩地域の住民であり、地域が豊かになっていくことは当社の社員の暮らしが豊かになることに直結し、地域が豊かになることと会社が成長することは持ちつ持たれつの関係です。
トップダウンから自律分権体制へ
昨今の情報化社会の中では、昔と比べて情報能力の高い人が多いです。インターネットを用いて、さまざまな情報に瞬時にアクセスが可能な現在において、企業のトップしか知りえないような情報はほとんどないと思います。トップが権限を握って「何かやるときは絶対俺に言ってこいよ」というのは時代遅れだなと、私も途中から考え方が変わりました。現在は、事業会社の経営を分権する自律分権体制を採用し、9つの事業を子会社にしてグループ化しています。一部を除き、代表権は私ではなく各事業会社の社長が持っています。子会社化した後もちゃんと経営がされている体制ができたので、この体制は続けていくつもりですし、今まだ私が代表を務めている会社もいずれは誰かにバトンタッチする予定です。
任せる基準は「基本的価値観」に共感しているか
事業会社の代表を務めるには、経営するための一定の経験や知識、経営者にふさわしい器が必要です。また、事業ごとの業界の専門的な知識も必要です。そのため、誰にでも務まるものではありません。また、それらが備わっている人であることに加えて、その人が信頼できる人間かどうかが重要です。信頼できない人間がどれだけ経験や知識を持っていても、その人に任せたいとは思わないでしょう。反対に、経験や知識があり、信頼できる人間であれば、任せても怖くないはずです。
当社でいう「信頼できる」とは、基本的価値観に共感し、コミットしてもらえるかどうかです。IXグループの基本的価値観は、「理念トーク集」という形で明文化されています。「理念トーク集」を様々な機会に読み合わせ、意見を述べ合い、腹に落としていくことで、時間をかけて共有を図っています。これにより、大きな責任と権限を任せても怖くない状態になると考えています。
社員の話を聞く
私は、マスヤの社長をしているときは社員面談を大事にしていました。面談の日を決めて、ほぼ一日中面談を行いましたが、社員も社長との面談に身構えてしまうなど、効率が良くないと感じることもありました。ただ、直接話をしなければ社員の本当の声を聞く機会は少ないので、面談は続けました。 最近は経営理念について話す動画を撮って、社員に時間があるときに見てもらうようにしています。600人の社員と直接話すのは難しいですが、動画を通じて理念を伝えるようにしています。私の代わりに、事業会社の社長は各社の社員と定期的に面談を行い、社員の話を聞いてくれています。少なくなりましたが、私も毎週30分は社員との面談の時間を取り、直接社員の声を聞くようにしています。
10年20年先の少し遠い将来に訪れるであろう課題への対策
当社のグループとしての課題についてお話しします。9つの事業会社がある中で、自律して安定している会社もあれば、まだまだ成長途上の会社もあります。成長途上の会社は適切にサポートする必要があります。サポートが必要な会社があることは、当社の課題であり、伸びしろだと考えています。
また、10年先や20年先など、将来にわたり事業が継続もしくは拡大できるかどうかが不透明なことも、課題と言えるかもしれません。例えば、介護業界では、高齢化社会と人口減少が進む中で高齢者の人口は現在がピークであり、今後は減っていくはずです。そうなると、次にどうするかを考える必要があります。
加えて、将来は地域の課題も徐々に深刻になることが予想されるため、対策を進める必要があります。例えば、耕作放棄地の問題や工場での人手不足などです。このような課題に対応しつつ、地域社会に貢献する形でビジネスを進めていきたいと考えています。
異動は自発性を尊重
グループの事業会社間で、異動は活発にあってもよいと考えています。
経営理念の「仕事を通して人生の幸福を追求する」は、言い換えると「自分らしさ」を活かして社会の役に立つということです。これまでに行ってきた仕事が必ずしも自分らしい仕事であるとは限りませんから、若いうちはさまざまな仕事を経験した方がよいと思います。ただし、無理に異動させると副作用もあるので慎重に対応しています。トップダウンで異動を決めずに、極力自発性を重視しています。自発性のある人は制度があってもなくても希望を出してきます。各子会社で説明会を行うなどして、自発的な行動が起こりやすくなるよう工夫を行ってきました。
社内副業制度でお試し異動
それでも、自発的に行動する人は少数だったので、最近は新たに社内副業制度という取り組みを始めています。本業を替えるのは大変ですが、副業で他の仕事を手伝ってみるという形なら取り組みやすいです。これにより、本業への影響が少ない中で、新しい経験を積むことができます。各事業会社が自由に副業の募集を行うことを推進していますが、まだ活発ではありません。ホールディングスが、率先して副業の機会を提供しています。ホールディングスでうまく回れば、各社でも副業人材を集められるように拡大していけるとよいと考えています。
副業を通じて、若い人たちが「自分らしさ」を見つけ、いろいろな仕事を経験できるようにしています。当社はコングロマリット型の企業であり、一見すると経営的なデメリットもありますが、人材育成という観点で見ると社員がさまざまな経験をできるのは大きな利点と考えています。
理念に共感できるかどうか
当社グループ全体でみると、〇〇な人がほしいという具体的な人材像はなく、いろんな属性の人が会社にいた方がいいと考えています。IターンもUターンも歓迎ですし、年代層も若い方からキャリアを積んだ40~50代の方でもそれぞれに良い点があり、どちらも当社では活躍できると考えています。あえて、採用における条件をつけるのであれば、経営理念や基本的価値観に共感してもらえるかどうかです。
経営したいという人は是非来てほしい
事業会社の経営をしたいという人にもぜひ来てほしいと思っています。事業会社をお任せする形態だけでなく、自身で会社の株を持ちたい人は当社から何%か出資するような形態を取ることもできます。出資する場合でも、グループ企業として扱うことで相乗効果を引き出しやすい環境になると考えています。
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