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地域お役立ち情報
人と仕事Vol. 4 赤目を駆ける現代の忍者。参上。(名張市)
NPO法人赤目四十八滝渓谷保勝会
世良仁(せら・ひとし)さん・31歳
「人と仕事」は、三重県で働く人に焦点をあて、どんな仕事に、どんな人が、どんな経緯で、どんな思いで取り組んでいるのかをお聞きするシリーズです。今回、シリーズ4回目のは、全国的にも珍しい両生類専門の水族館である「日本サンショウウオセンター」で、サンショウウオの飼育を担当の世良仁(せら・ひとし)さんを訪ねました。
「ECOツアーのガイド」「忍者修行体験の案内人」「昆虫の飼育担当」そして「オオサンショウウオの飼育担当」。しかして、その実体は?
世良さんにお会いしたのは、「赤目自然史博物館」の玄関先。サンショウウオの飼育とはちょっと結びつきにくい、ウエットスーツ姿でした。実はこれから、「赤目渓谷源流冒険ツアー」と銘打った沢登りにガイドとして出発するための姿だったのです。
このツアーは赤目の滝から車で30分ばかりのところにある渓流を遡り、クライマックスは落差10m以上ある滝をウオータースライダーのように一気に滑りおりるスリリングな体験ツアーです。ツアーの申込受付やウエットスーツへの着替えなどの準備など「赤目自然史博物館」は、様々な体験型アトラクションのツアーデスクも兼ねているのです。
「赤目渓谷源流冒険ツアー」のほかに、渓谷内の「滝に打たれて自分を磨くECOツアー、小学生向けの「ちびっこわくわくECO体験ツアー」、また、かつて伊賀忍者が赤目の滝で修行したとの言い伝えにちなんだ「忍者修行体験」など、多彩な体験型アトラクションを開催しています。そのため、世良さんは「エコツアーのガイド」のほかに「忍者修行体験の案内人」、ちびっこわくわくECO体験ツアーに参加した子供たちにプレゼントする「カブトムシの飼育」そして「オオサンショウウオの飼育」と多彩な仕事に携わっているそうで、さしずめ現代の変身忍者といったところですね。
登山ガイド資格を取るため貯金をはたいてアウトドア専門学校へ
世良さんは、島根県益田市の出身。忍者が縁で三重県名張市に移住することになったそうです。高校卒業後、2015年まで広島県の自動車メーカーに勤務していましたが、生来の自然好きが高じて登山ガイドの資格を取るために退社。貯金を叩いて新潟県妙高市ある「国際自然環境アウトドア専門学校」の門を叩きます。2016年から3年間、自然環境に関する知識をフィールドに出て実地勉強しました。カリキュラムは、鳥獣や植物、天気など自然に関する基礎知識に始まり、実際に学者とともに山には入って生き物を捕まえて調査する実習、ロープワークの実習、ファーストエイド(応急処置)、登山におけるチームワーク、チェーンソーの使い方まで多岐にわたるものでした。
赤目での就職は忍者がきっかけ
その学校で、三重県大紀町出身の中村さんに出会いました。「三重県の名張市にある赤目四十八滝は、かつて伊賀忍者やが修行したところで、観光ツアーとして忍者修行体験や沢登りをやっている。そのインターンシップに参加しないかと、忍者大好きの中村くんに誘われました。そのインターンシップでゼネラルマネージャーの増田さんに、もう一人の同級生の西さんともに勧誘され、三人で赤目四十八滝渓谷保勝会に務めることになった」そうです。この仕事を始めた頃は、ちょうど「赤目自然史博物館」の立ち上げと重なり、世良さんは動物担当、中村さんは最初のテーマ展示である忍者展を担当、苔好きの西さんは苔観察ツアーの企画と、それぞれの得意分野を発揮して、目が回るほど忙しいいけれど、とてもやりがいのある毎日だったと笑顔で振り返ってくれました。
「赤目四十八滝保勝会は地元の観光業者が中心となって、赤目四十八滝の観光振興、散策エリアの安全を管理するNPOです。倒木が遊歩道を塞いだり、大雨で道が崩れたりしたら職員が駆けつけて、倒木の除去やドライセメントによる道の補修などを行います」。ある時、バテて動けなくなったお客さんを担いで救急隊員のところまで連れて行ったことがあるそうで、「ザック搬送」という山登りで遭難者を搬送するテクニックを利用したとのこと。滝に沿った遊歩道は良く整備されていますが高低差が激しくかなりキツいのも確か。登山ガイド資格を持った職員がいてくれるのは、ハイカーにとってとても心強いことです。
滝への遊歩道の入り口は、全国的にも珍しいサンショウウオ専門の水族館
赤目四十八滝への遊歩道入り口は、国の特別天然記念物であるオオサンショウウオをはじめとしたサンショウウオの仲間を展示する水族館「日本サンショウウオセンター」になっています。「この水族館よりも下流で見つかるオオサンショウウオのほとんどが中国種との交雑種です。発見したら捕獲して、交雑種は日本サンショウウオの会の清水先生を通じて、名張郷土資料館で保護飼育してもらいます。判別の難しいものは、DNA鑑定にまわし、結果が出るまで当センターで預かります」と、この水族館のもう一つの役割を説明してくれました。
同センターはこれまでからオオサンショウウオの啓蒙に努めて来ましたが、今年2月には、清水先生の協力を得てサンショウウオの調査捕獲企画を赤目では初めて実施しました。オオサンショウオの幼生を探して観察会です。参加者を募集したところ寒い中にも関われずたちまち定員に達し、大好評だったそうです。
ちなみに名張郷土資料館は廃校になった小学校を利用した施設で、水泳用プールに約200匹の交雑種が保護飼育されています。
参考:日本サンショウウオの会
動物好きからサンショウウオの飼育担当に
「サンショウウオの飼育の関わる仕事は専門の担当者がいたのですが、一昨年初夏に、急な事情で退職されてしまいました」。引き継ぎは水換えや餌やりなど簡単なもので、残った職員が交代で世話に当たったのだそうです。そんなある日、保護した交雑種の1匹が死んでしまいました。
これではいけないと、兵庫県の「日本ハンザキ研究所」に問い合わせたところ、広島県の「安佐動物園」を紹介してくれたそうです。同園は日本で初めて人工繁殖を成功させたことで有名で、早速出張して飼育のポイントを徹底的に教えてもらったそうです。「たとえば、DNA判定待ちの小さい個体は衣装ケースに水を張って保護しています。これまでは一々水を汲み入れて交換していたのですが、新鮮な滝の水をパイプで掛け流しできるように工夫しました。また、全ての水槽に空気を送るためのエアレーションも取り付けました」と世良さん。飼育施設の改修を急ピッチで進めたそうです。「担当者も一人に固定した方がいいと上司に報告したとろ、結局、動物好きの私がやりますということになりました」と担当者になったいきさつを話してくれました。
卵から新しい命が
サンショウウオの飼育担当とになってしばらくは、先の担当者が残した飼育日誌や書籍、資料に目を首っ引きで目を通す毎日が続いたということです。
「日本サンショウウオセンター」には、国の特別天然記念物であるオオサンショウウオ(在来種)をはじめ、チュウゴクオオサンショウウオ、オオサンショウウオとチュウゴクオオサンショウウオとの交雑種。そのほか、ウーパールーパー(和名:メキシコサンショウウオ)、ムハンフトイモリ、イベリアトゲイモリ、カスミサンショウウオ、ニホンイモリ(アカハライモリ)、オキナワシリケンイモリなど小型のサンショウウオの仲間が展示されています。
「エサひとつをとっても個体毎に与える分量や内容が違うので気を遣います。オオサンショウオは肉食で、成体にはササミ、アジやイワシ、時には栄養価が高いドジョウを与えます。分量は体重の約1%が目安。食い溜めが効くので10日に1度」で良いそうです。「小型のサンショウウオの仲間は、3日に1度の給餌が必要。小さな幼体には、滝そばの水溜りに生息するヨコエビをスポイトで給餌します」。もう少し大きくなるとピンセットでアカムシを摘んで口元に持って行って給餌します。その様子を見せてもらいました。「これは、昨年、このバックヤードで孵った卵から成長したオキナワシリケンイモリの子どもです」と優しい眼差しで餌を与える世良さんの姿が印象的でした。
学術的にとても貴重なオオサンショウウオも
次に、「説明プレートもこれからですが」と案内したくれたのは、2階の展示室。今年3月末に営業を休止した志摩マリンランド(三重県志摩市)で飼育されていたオオサンショウウオが本格的な展示を待っています。「建設中の川上ダム(三重県伊賀市川上)の保護池で、2002年に孵化(ふか)したものです。年齢のわかるサンショウウオは大変貴重なのです」と世良さん。2階の飼育コーナーはしばらく休止していたのですが、里帰りしたオオサンショウウオのために再稼働したそうです。オオサンショウウオの成長や生態がわかる水槽展示や説明パネルなどを整備していくとのことでした。
以外なことに、交雑種がはびこる原因となって厄介者扱いされるチュゴクオオサンショウウオも今や高い資料価値が出てきたそうです。「原産地の中国本土は生息数が激減していて、展示している個体は今希少な存在になっているんですよ」とその理由を教えてくれました。
休みの日だからこそ山で過ごす
「オオサンショウウオは国の特別天然記念物でから、その飼育担当者として責任を感じます」と話す世良さん。これまでのお話をお伺いした部屋の本棚にはサンショウウオに関する何十冊もの書籍が並びんでいます。その横数本の大型ロッカーには前任者が残してた飼育日誌が納められています。ここ数年で知識を吸収して、実務に生かす。本当に自然好き、動物好きでないとつとまらない仕事だと実感しました。自然の中で忙しい毎日を送る世良さん。休日の過ごし方を聞いてみると、「休みの日は渓流を求めて山に入る」そうです。それも米と調味料だけを携帯するサバイバル登山。「沢登りが大好きなので、新しい渓流を探しに行きます」と意外というか、やっぱりというか。「赤目渓谷源流冒険ツアー」は来年初夏までお休みですが、紅葉深まる季節が訪れます。10月末からはライトアップ。厳寒時には氷瀑と、一年を通して楽しめる赤目の滝。コロナ禍による「緊急事態宣言」「 まん延防止措置」も9月末で全面解除されたことで、従来のように多くの観光客が訪れそうです。世良さんの毎日はますます忙しくなりそうですね。
忍者修行の森・赤目四十八滝
三重県名張市赤目町長坂671-1
TEL:0595-64-2695
http://www.akame48taki.com/
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